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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)55号 判決

上告人(被告・控訴人) 柳谷兼一郎

右訴訟代理人弁護士 小野善雄

被上告人(原告・被控訴人) 原喜一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小野善雄の上告理由一の(1) について。〈省略〉

同一の(2) について。

民法一一〇条は、代理権を有する者がその権限を踰越した場合に関する規定であるから、同条による表見代理の成立を主張する者は、代理人として行為した第三者が、少くともある代理権を本人から真実与えられていた事実を、具体的に主張立証しなければならない。しかるに、上告人が原審においてこの点に関する具体的な主張をした形跡は認められない。また、所論のように訴外相馬、山崎らにおいて訴訟中の旧手形を所持していたからといって、当然に同人らが被上告人から右手形に関し代理権を与えられていたものとはいえないし、論旨指摘の被上告人の供述も、これをもって直ちに代理権を与えた趣旨と解さなければならないものとはいえない。されば、基本代理権について主張立証がないとした原判決は、所論のような違法は存しないから、論旨も援用できない。

同二の(1) ないし(3) について。

本件手形が旧手形に関する支払猶予の合意に基づいて振り出されたいわゆる書替手形であるとした原判決の事実認定は、その挙示する証拠によってこれを肯認するに足り、所論の乙第三号証をもって、手形権利者において支払請求をしない旨約した文書とは認められないとした点も、その文書に徴すると相当であって原判決の叙上認定につき、審理不尽、理由不備や採証法則違背等の違法が存するものとは認められない。〈省略〉

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

上告代理人小野善雄の上告理由

一、原判決は審理不尽、理由不備、理由齟齬判断遺脱の違法がある。

原判決は二枚目末行より「控訴人の抗弁について按ずるに(イ)(便宜上(イ)(ロ)に区分する)原判決事実摘示記載の抗弁(一)(二)の事実は当事者間に争いがないのであるが(ロ)その余の事実(原判決事実摘示記載の(三)(四)の事実及び当審で主張の前記(1) 乃至(3) の事実〔原判決一枚目裏七行目より二枚目表八行目まで〕)はいづれもこれを認めるに足る証拠はない(尚当審における前記(2) の表見代理の主張はその主張している事実を認めるに足る証拠がないばかりでなくいかなる代理権限が踰越されたのかその基本代理権についても明瞭な主張立証がない」と判示した。

(1) 〈省略〉

(2)  更に右判示の(ロ)の部分は原判決一枚目裏七行目より二枚目表八行目のとおり即ち訴外相馬正夫、山崎平之丞(山崎藤栄の誤記である)が上告人の代理人として訴訟中の前手形(乙第二号証)を持参し上告人に支払義務がないことが判明した訴訟は取下げる同年三月三十一日までに返へすからもう一枚手形を書いてくれと右手形(乙第二号証)を返還したので之を信じて甲第一号証の本件手形を交付したものであるから右訴外人等の代理権はいかなるものであるか明瞭でなかったが訴訟中の手形(乙第二号証)を右訴外人等が所持していたのは被上告人の第一審供述の(一六)(一七)(一八)(二二)のとおり何等かの代理権を与へられていたものであることは明白であるのに基本代理権について明確な主張立証がないとの判示は審理不尽、理由不備の違法があり破毀を免れないものである。

二、〈省略〉

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